2009年5月号の【仏事】に善勝寺の取材記事が掲載されました。
将来に渡っても寄付を求めないお寺
善勝寺の住職に就任するに当たって、明見住職が決めたことが、「お寺から寄付を求めることはしない」ということである。
このことは、墓地の使用規則にも明記しているほか、お寺で配布するパンフレットやホームページでもはっきりと記載している。
「寄付を求めない」ということについて、明見住職は「お寺と檀家さんとの操め事の発端は、ほとんどの場合が寄付である」と指摘する。
寄付を求める際に、仮にお寺が「いくらでも良い」と言ってしまうと、往々にして寄付は集まらない。したがって、基本的には檀信徒に対して強制的に求めざるを得なくなるわけだが、すべての檀家が常にお寺の求めに応じて寄付できるほど経済的に余裕があるとは限らない。中には、子育て中も家庭もあれば、介護者を抱えている家庭もあるという具合に、事情はまちまちである。そうした各家庭の事情を無視してお寺から一方的に寄付を求められて、檀家が困惑するというケースも起こり得る。こうしたことを避けるためにも、「お寺から寄付を求めない」ことを決定した。
当初、役員からは「原則として」という文言を入れようという意見も出たが、「原則」があれば「例外」が生じる。「例外」を作ってしまったら、結局は同じことになってしまうので、明見住職は「お寺から要求しないということは、何があっても要求しないということ」とし、役員からの理解を取り付けた。
寄付を求められることがないということには、檀信徒にとっては当然のこと、寺院にとってもさまざまなメリットがある。
そのひとつが、役員が積極的に寺院の運営に参加することが可能となるということだ。これは、例えばお寺が寄付を求める場合には、役員自らも寄付を出すだけでなく、徴収する役を務めなければならなかったりと重い負担がのしかかる。しかし、寄付を求められることがなければ、そうした心配もなく寺院活動に協力できるということである。また、檀信徒も皆、寄付がないということで安心できる。
さらに、葬儀社が菩提寺を持たない人を紹介してくるというケースもあるが、こうした場合にも、「寄付がない」ということをはっきり打ち出している善勝寺は、葬儀社にとっても顧客に勧め易いお寺となっているという。
寄付を求めないための寺院運営
「寄付を求めない」という方針も、一時的なものであれば意味はない。そこで、明見住職は、住職の代だけでなく将来に渡って持続できるよう、寄付を求めずにお寺を運営できる仕組みを整えた。
まず、明見住職が取り組んだのが、会計の明朗化である。
「役員の同意を得た上で、予算と決算をきちんとし、日ごろの浄財を管理しておけば、お寺としての運営は成り立つ」という考えである。それまでは兼務寺ということもあって複数あった会計を一元化し、すべての収入と支出を檀信徒に公開することにした。初めのうちは、役員の中でも護持会費だけの公開で十分という考えが主流で、お布施は住職個人のものと思われていた。法事や葬儀のお布施については発表しなくても良いという感覚を皆が持っていたという。しかし、護持会費はお寺全体の収入の一部であり、それだけでは収入と支出の全体が分からない。
こうして、毎年12月の役員会で次年度の予算が決められ、4月末、もしくは5月初旬に前年度の決算報告が行われることとなった。これらの会計報告は、すべての檀家に寺報とともに郵送される。
また、住職や事務職員である住職夫人の報酬も宗教法人として決まっているのだから、きちんと源泉徴収をし、給与として支払うこととした。
「就任時にはお寺に収入がなく、とても給料をも らえるような状態ではなかったが、収入がないからと給与を減らすのではなく、毎月決められた額をきちんと受け取り、税金も支払う。その上でお寺に無利子で貸し出すという形をとった」という。「個人のものとお寺のものとを、きちんと区別しなければならない」とし、ここでも「何があっても例外は認めない」という姿勢を貫いている。
善勝寺の場合、その収入は墓地関係のもののほかに、年間約300件の法事と、檀家以外のものも含めて100件近い葬儀でのお布施がある。
このお布施も、「いくらでも良い」となると分からないので、目安となる基準を決めている。ただし、基本となる価格は最低限必要な額に設定する。そうすることで、檀信徒が法事を申し込む回数が増えるという。これらのお布施のうち、お寺の固定費は半分くらいに抑え、後は流動的にお寺のためになることで予算に合わせて使用するという。
また、いざと言う時のために、すべての建物、仏具から法衣にいたるまで積み立ての火災保険に入っている。本堂や大きい建物は30年満期の積み立て保険なので、30年たてば屋根換えができる程度の額が貯まる。しかし、30年ごとに屋根を換えなければならないわけではないので、余った部分は貯めておき、必要に応じて使うことができる。
また、住職に万一のことがあった時も、寄付を求めなくても良いよう、生命系の保険で葬儀と新しい住職の晋山式を執り行えるようになっている。
すべてを合せると、保険料だけで年間500万円以上の費用となるが、このようないざと言う時のための十分な備えが、「将来に渡っても寄付はいただきません」と言えるだけの根拠となっているわけである。
駐車場を無償で提供し地域へ貢献
これからの活動については、「今やっていることを続ける」という明見住職であるが、こうした寺院の檀家に向けた活動以外にも、地域住民に対してもさまざまな取り組みを行っている。
一例を挙げれば、善勝寺の山門前には鴻巣市コミニティバスの停留所があり、朝夕は駅に向かう学生や会社員が善勝寺まで自転車でやってきて、ここからバスに乗る。このようなバスの利用者のためには駐車場の一角に駐輪場を設け、自由に利用できるようにしている。
また、施餓鬼法要で集まったお布施については、地震や津波など、国内外を問わず災害の被災地や、地雷の除去、ユニセフなどに寄付している。そうすることで、施餓鬼の本来の意味を、人びとに伝えているのである。
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